二人暮らしに終止符を


気づいた時には奴との二人暮らしが始まっていた。
本棚の一番上に置いてある薬箱、その側面にいつからなのか、おれの人差し指大で枯れ草のような色をしたバッタがいたのだ。

ここに暮らし始めて三年目になるが、初めて部屋の中で、本当に真顔になった。
虫はだめだ。しかもでかいし。だめだろ虫は。


今日の朝になるまでまるで気がつかなかった。朝は学校に向かう直前だったので、とりあえずそのままにして出てきてしまったが、今、つまり奴のいる部屋に帰る時になってバッタに対する恐怖が蘇ってきた。


そもそも何でバッタが、
しかもあんな立派なのがおれの部屋にいるのだろう。
いくらバッタの脚力がものすごいからって、まさか8階に位置するこの部屋に飛んでやって来たわけではあるまい。

かといってエレベーターや階段を使ってわざわざこんなところにやって来るものとも思えないので、罰が当たったということにした。

部屋をきたないまま放置していたから、
神様が罰としておれの部屋にバッタを生じさせたのだと。

そう納得することにした。
生じたのがゴで始まるアレでなかったのだから、ここは感謝すべきところかもしれない。


バッタの現れた理由はそれでいいとしても、対処の仕方を決めないことには恐怖を拭い去ることはできない。
殺さず部屋から追い出す。そこまでは決まっていても、それをどう実現するかという話なのだ。できれば直接手で触れたくない。

やつはおれが部屋に戻ったあとも、変わらずあの薬箱にしがみついているのだろうか。バッタに帰りを迎えられているようで気持ち悪いなあと思う。
しかし薬箱から消えていたらいたで、事態はまた変わってくる。見えない恐怖と戦わなくてはならなくなってしまう。

そうなると、もう今夜は眠ることすらできないだろう。
寝ている間にあの立派なのが顔にでも飛んできたら…なんて想像するだけでもストレスで髪の何本が抜けてしまいそうだ。



今のところ朝みたバッタは幻覚で、家に帰れば何事もなくいつもの生活を送るというパターンが最高なのだが、
そんな現実逃避をしたところで何も変わらないことは分かっている。


結局、家に帰って直接やつと対峙しないことには何も事は始まらないのだ。
どう対処するかは、帰ってから考えよう。


その前に、一度ソウルフードであるとんこつラーメンでも食べて気持ちを落ち着けなければ…。