勘違いの向こう側
会社のちょっとしたイベントに応募して、参加できることになった。
会場の場所に馴染みがなかったので、道に迷ってしまい、参加者名簿に同期の名前があったのを思い出して、会社の、名前から検索して連絡をとれるシステムを使って、慌てて音声通話ををかける。
結局そこは繋がらず、たまたま通りかかった大先輩に道を聞いてことなきを得た。
会場についてから、周りを見渡すも同期の子はおらず、結局来るはずだったメンバー2人が欠けたまま、イベントは始まってしまった。
途中、先ほどの音声通話に折り返しが来ていたことに気がついて、まだ来ないの? イベント始まったよといった旨のメッセージを送ると、
次の返事で連絡をとっていた相手が同期ではなく同姓同名の見も知らぬ先輩であったことが判明した。
血の気が引いた。
こんなに血の気が引いたのは中学1年生の時、音楽の授業で必要な道具を一式全て忘れてきたことを授業開始5分前に気がついた時以来だった。(ぼくの中学の音楽の先生は体育の先生より何より怖かったのだ)
謝らねばならないと思ったが、イベントの最中だったこともあり、とりあえずメッセージ上でひたすらに謝罪した。
先輩は15個上のお偉いさんだったということはなく、ひたつだけ年次が上の人であったことは不幸中の幸いだった。
非常に優しい方で、よくあることだから気にするなと言ってくださった。
終わったあとに、直接謝らねばなるまいと思って声をかけた。やっぱり気にしなくてもいいと、笑いながら許して下さった。
逆にひとつ、
質問をされた。
あなたの知ってる◯◯◯ちゃんってどんな子?
ぼくを含め、同期の◯◯◯と間違えて先輩に連絡をしてくるやつは本当に結構な人数いるらしい。
明るくて、いい子ですよと、ぼくは答えた。
月並みだけれど、共に過ごした時間が少ないぼくにはそれが精一杯の表現だったし、実際、明るくていい子なのだから仕方ない。
そっかー、
どんな子なのか一回会ってみたいな。
と先輩は言った。きっといい子なんだろうなと。
連絡間違いが頻繁にくるのは、不思議と嫌な気はしないんだと先輩は言っていた。知らない人から来る連絡の、その文面から◯◯◯がどんな人なのか想像するのが面白いらしい。
大概どの連絡からも、◯◯◯が慕われてることは読み取れるのだと言って先輩は笑った。
その後もう一度だけ謝ってから、先輩とは別れた。
名前で検索して連絡できるシステムが、こんなお話みたいな出来事を生むんだなと思った。
自分と同じ名前を持った知らない誰かのことを、同じく知らない誰かから来る連絡から少しずつ知るなんてことが、あるんだと。
もともとは全く違う内容でまあまあの文字数を書きかけていたのだけれど、あまりにびっくりしたのでこっちを改めて書いた。
千文字を超えたのは随分久しぶりな気がする。
自分に特に何があったわけでもないのに、今日のこの出来事は何故かぼくを元気にしてくれた。