見た目が同じでも味が違う料理ってあるよねという話

 

「雇われてくれ言われた依頼は断ってもいいが、頼まれてくれ言われた依頼は断るなと教えられた。そうやって集落は和を作って生きてきたんだ」

 

とじいちゃんが言った。

 

正確には”そういう内容のこと”を言った。

実際にはじいちゃんの出身地の訛りの混じった標準語だった。

 

じいちゃんがおれに話すことで伝えたかった意味内容は、

おそらく90%伝わった。

 

だけれども、その時のじいちゃんの口調とか、表情とか、その場の空気とか、

そういうものは自分の中ではすっかり消化されてしまっていて、もう再現することはできない。

 

だから、一番最初に鍵括弧でくくって引用したあのじいちゃんの言葉は、

もうあの時のじいちゃんの言葉ではなくなってしまった。

 

終戦記念日には、

よく失われつつあるものを後世に伝えよう、と漠然と叫ばれるけれど、

それってとてつもなく難しいことだよなあと思うのです。

 

言葉って、表面上の意味が同じでも誰が口にするか、どんな風に話されるかで印象なんかいくらでも変わってしまうものだから。

 

先人達の言葉をベルトコンベアの様に右から左に後世に伝えていけばいいってもんじゃなくて、その言葉にくっついていた、その言葉を口にした人の垢のようなものを、少しでも多く残した状態でずっと持っていければいいなと思うのです。