夢日記2
どこか遠くから、はるばる前に通っていた高校に、車で向かっていた。
転校は小学生のうちにしかしていないはずだから、これは夢だなと気がついた。
ぼくは夢の中で高校生に戻っていた。
古い木造の建物や、入り口に鳥居のおかれた少し高度のある、山のような森や、見渡す限りの田畑に挟まれた、舗装もされていない、すれ違いもできない狭い土の道を、車は走った。となりのトトロみたいだいな、と思った。
日は既に暮れかけていて、田んぼの水がきらきらとさみしく光っていた。
気が付くと、さっきとは打って変わって賑やかなデパートにいた。
買い物をしにきたわけではなく、家に帰るためにはここを通らなければならないようだった。そんな馬鹿な。
とぼとぼと歩いていると、下の妹が迎えに来てくれた。
道に迷うと行けないから、と妹は言った。
お礼を言った後に、でも道順は体が覚えてるみたいだ、ぼくもここに長く住んでいたから。と答えた。
そのデパートは、現実の実家からそう離れていない場所に実際にあるものを模していたからだった。どうやら夢の中のぼくも、現実と同じく家族とは別居しているらしい。それで、家族のいる町に久しぶりに帰ってきたようだった。
ぼくの中で、下の妹はいつまでも小さいようなイメージがあるからか、彼女は小学生くらいの姿だった。
先にぐんぐん進んでしまっていいよ、それにおれが追いついたら、おれの勝ち、家まで逃げ切ったら、お前の勝ちね、と言うと、妹は喜んでかけだした。
ぼくはゆっくり、しかし妹を視界からはずさないペースで歩みを進めた。
今度は気が付くと学校の前にいた。
日はとっくに暮れていて、外は今にも夜になりそうだった。
ぼくは入り口から下駄箱のある空間に入った。
学校はしんとしていて、冷たかった。
何をしにここに来たのかわからなくなって立ち尽くしていると、
下駄箱の空間を抜けたところにある階段から、誰かが降りてくる足音がする。
降りてきた女の子は、知った顔だった。
女の子は階段の途中でぼくの姿をみとめると、足を止めてこちらに笑いかけた。
微笑みではなく、日の光のように射すような、快活な笑顔。
来たね、ごめん、まだ準備が終わってないけど、みんないるから教室においでよ、と彼女は言った。
今日は文化祭だったのだと、その時思い出した。
ぼくは前に通っていた学校の、文化祭を見るために戻ってきたんだった。
文化祭は遅くとも夕方までには終わり、その後撤去作業が行われる。
さっきやけに学校の雰囲気を冷たいと感じたのは、もう文化祭の熱気がこの場所に感じられなかったからだったか。祭りの後。
それだったら、準備が終わっていないとは何だろう。
ぼくは教室に向かった。
階段を昇ってクラスメイトの居る教室のある階についたら、かすかに祭りの、活気のあるにおいがした。
廊下を教室に向かっていくにつれ、昔の級友に顔をあわせる気恥ずかしさと、祭りの活気に顔が火照ってくる。
真っ暗な廊下を、光の漏れる教室に向かってまっすぐに進む。
スライド式のドアのくぼみに手をかけて、
ええいままよとおもいっきり開く。眩しい。
中はとても騒がしかった。
各人がそれぞれ何かしらの作業に没頭している。
その中の一人が、ぼくに気がついて声をかけてくれた。
夢で会うまで忘れていた、中学時代の友人。
おお××、来てくれたんだな。おれたちさ、文化祭で映画を上映するつもりだったんだよ。と彼は言った。
つもりだった? と返すと、
そう。つもりだった。前評判も良くて、今文化祭No1の展示とか言ってめちゃくちゃ宣伝されてたんだが、結局今に至るまで準備が間に合わなくて、一回も上映はできなかったんだ。
言って、彼は屈託なく笑った。このクラスらしい、とぼくは思った。
でも、お前が来てくれて良かったよ。もうすぐ準備が終わりそうなんだ、映画ってのはやっぱりお客さんがいないとだめだからな。
そこまで説明してくれてから、彼は自分の作業に戻った。
それからしばらく他の友達と話していると、
教室の隅から、封を切るぞーと声があがった。
その声に、歓声が続く。ぼくは少し居づらいような気持ちになって、襟に顔をうずめた。
上映の一歩手前になってから、教室全体がぼくの存在に気がついた。
なんだよ、来てたならもっと早く言えよと、あれよあれよと言う間に教室の真ん中に特等席が作られて、ぼくはそこに座らされた。
みんなはぼくの席を後ろから半円状に取り囲むように席を置いて、そこに座った。
出来上がった映画と、それを見るお客さんの反応を同時に楽しむ腹積もりらしい。
やりづらいったらありゃしない。でも、嬉しかった。
おーい、
んじゃ今度こそ映すからなー。
と後ろから声がして、教室が初めて静かになった。