藤原京

 

相手がなんだろうが、おれは好きでも嫌いでもないのだとその人は言った。

 

好きと言った瞬間、嫌いと言った瞬間から、

それは自分を狭めることになるのだと。

 

何でもいいんだとその人は言った。

とにかく打席に立って、空振りだろうがホームランだろうが、死ぬ気でバットを振れと言った。

 

楽しい人だった。

自分の我を通すより、自分を含む空間全体の幸せを願っているのだと感じた。

 

そしてその人は、そのように考えるように努めていると言った。誰にでも簡単にできることだよと言った後で、でもそれを続けるのは頑張らないといけないかもと笑った。

 

腹の底に溜まっていた悩みごとはすっかり消化されてしまって、かっこいい大人にきらきらと憧れた。