仙人

日が落ちるのを見届けようと思って屋上にいた。

風が強い。雲もぐんぐん流されていく。
 
立っていると飛ばされてしまいそうで、マッチ棒のような私は慌てて屋上の非常階段に腰掛ける。
遠くにそびえる山の影のような雲があって、目的の落日があるだろう橙の空は少ししか見えていない。
 
山脈雲があったかと思えば、横断歩道のように途切れた雲もあり、薄手のカーディガンのぼろぼろになったような雲、ハマグリのようなの、棒切れのようなの、たくさんの雲がそれぞれ好きなように浮かんでいる。
空の色もよく見てみると一様に青いわけではなくて、霧のように薄い雲がかかっているところは白く見えるし、光を吸収してしまう厚い雲のあるところは藍色に見える。
同じ薄いでも、日の光の届いているところは黄金色のようにも見える。
 
本を片手にぼけーっとしていると、あたりは次第に暗くなってきて、それに応えるように建物に一斉に灯りがともった。点くその瞬間を見逃したのはもったいなかった。また次の楽しみにしよう。
 
暗くなっていくに従って、カラスが騒がしくなってくる。
カアカアと鳴く声には高いのや低いのがいて、群れているのや1羽でいるの、2羽でつれだって飛んでいるのなどを見るにつけ、カラスにもいろいろがいて、また私の知らない彼らの生活があるのだろうと思う。
あんな小さな羽ばたきひとつでカラスはついーっと空を滑空するのだから、
人間だってそろそろ個人で空を飛べたっていいのになあと思う。機械の力を借りたってかまわない。
そうすると今の通勤ラッシュは空の渋滞にとって代わるのだろうか。
スーツに身を包んで髪もしっかりセットしたサラリーマン達が、空を縦横無尽に飛び回る姿は少し面白い。
 
日がすっかり暮れてしまうと、カラスたちは静かになった。
目をつむって微動だにしないでいると、そのまま自分が風や雲や、そんな自然のものの中に溶け出していくような気がする。
 
これがNARUTOで言うところの自然エネルギーを感じるということか、などと考えてから、そういえば今週のジャンプはまだ読んでいないなと思い、立ち上がった。