旅日記(仮)1日目


7時7分

これから13時間ほど続く電車旅の、最初の電車に乗りました。

まだ家からそう離れていないので、旅というよりはちょっとした外出のような感覚です。

目下のところの心配は、キャリーケースが想定の3倍くらい重たいことです。身軽とは何だったのか。既に腕がぷるぷるです。
鈍行の旅は基本的にのんびりしていますが、乗り換えの時だけはかなりシビアなのです。(失敗すると数時間次の電車を待ちぼうける羽目になることも)

あと眠たい。すんごく。

とりあえずこのまま沼津(静岡県)まで一気にいくぞー

8時2分

日に焼けてまっくろな、お猿さんみたいな少年2人とずっと、あ、海が見える。
そう、そういう少年達とずっと電車を共にしてるんですが、こんな時間から、結構な遠出をするものだなあと思って、彼らを見ています。


もう小田原を過ぎ、沼津に迫らんとしているところなんですが、さすがに車内の人も減ってきて、出勤姿の人々よりは、大きなカバンを持った旅人の割合が増えてきました。

それぞれが、これから向かう先でのあれこれについて、楽しそうに話しています。海見たらそりゃ泳ぎたいよな。

荷物の重いのはもう諦めて、どうにかする覚悟が決まりましたが、続いて食べ物や飲み物をどこかで買う暇があるのかどうかが心配になってきました。乗り換えがシビアなのは、既に説明した通りです。


一日目のゴールは広島なんですが、
広島着くまで飲まず食わずはさすがに避けたいなあ…。

あー海が広い。鈍行の旅は景色見る余裕があるのがよいですね。朝日が反射して、海は真っ白くみえます。

ぼくの正面の席に座るお兄さんが、口をぽっかり開けて、腕を組んで寝ています。

8時27分

今日の旅の終着点は広島だから、当然夕飯にお好み焼きを食べるつもりでいたんですが、今この段階ではしゃぶしゃぶかすき焼きが食べたいです。

お好み焼きは関西のも広島のも好きです。どうでもいいですけど、ぼくは広島のお好み焼き、関西のお好み焼き、と表現します。広島風とか関西風とかいうのは、広島か関西かのどちらかのお好み焼きを正当とした上で、そうではない方を指すための言葉なように思えるからです。

熱海で電車に乗っていた若い旅人たちはあらかた降りていってしまって、車内の平均年齢がぐっとあがりました。

雲行きが少し怪しい。


8時44分

旅中、中でも結構厳しい乗り換えをクリアしました。膝が震えてます。


明るいうちは、見るともなくても景色が目に入ってくるので、それが楽しかったりします。

あとは、在来線は地元の人が乗るので、
乗り換えるたびに客層がころころ変わるのも、面白いです。

今からは、沼津を抜けて浜松を目指します。静岡は横に長いようでいて、案外すぐ抜けられます。兵庫から山陽三県のラインにも見習って欲しいところです。

静岡なうですが、なんだかとても霧がかってる。雨は降らんらしいんですが、こりゃ一体なんなんでしょうか。

あわよくば富士山見えないかなあなんて思っていたんですが、厚い雲が地上近くまで降りてきているみたいに、先を見通すこともできないので、こりゃダメそうですね…。

そろそろお腹が空いてきました…。

9時52分

大学生の群れに囲まれてアレ。
それなりにみんなわいわいしているのだけれど、座ってる人立ってる人、そもそもその座ってる、立ってる位置とか、話しぶりから、集団内での力関係のようなもんが推し量れるのがなんかアレです。
そういうのからは解放させてくれ頼む。

さっき景色がどうのと書いたんですが、
電車の窓から景色をちゃんと見ようとすると、座席についている必要があるのだと、今更ながらに気がつきました。

立つのはこれからの旅路を思うと辛いことですが、景観的な意味でもマイナスポイントがあるとわかった以上、今後は意地でも座っていく所存でがんばります。
でもずっと座っているとお尻だって痛くなるのですから、少し考えものです。

相変わらずお腹、空いてます。


11時3分

背もたれを前後に動かすことで、座る向きを変えるイスが設置されてる電車を初めてみた。

とりあえず飲み物は買ったんですが、食べ物はホームに売店みたいなのがない限りは、ゴールまで手に入らんかもしれません。


電車でうまいこと寝てる人に、その方法を伝授して欲しいと思う今日この頃。


11時51分

昼ごはん食べれました。
乗り換え14分もあるし、冷麺なら余裕だろとか思ってたんですが、発車の5分前まで料理の提供がなかったので、2分で完食する羽目になりました。見通しの甘さ。

そんなこんなで大垣に向かっています。
ご飯食べたから少し元気になりました。
でも車内の異常にきいている冷房に、早くもその元気を奪われつつあります。

在来線から見える景色って、大概が自然というよりは民家だったりするんですが、あたり前だけれど自分の知らない土地にも人が住んでいて、あたり前だけれどその人たちの生活があって、というのを垣間見ることができるので、それはそれで楽しかったりします。

自分の視界の及ばない範囲にも何かが存在している、ということを理解するのは認識の初期段階の話ですが、それでもやっぱりいざ見てこなかったものを目の当たりにして、自分の知らない現実があることを知ると、やっぱり不思議だなあという感覚が勝ります。

冷房の温度少しあげてくれって頼んだら、とても心地よい空間になりました。車掌さんがいい人でよかった。

こんなに車掌さんが頻繁に車両を往復する電車も珍しい。


12時45分

この電車は2席、2席が対面する形で座席が並んでいて、ぼくの向かいに赤ちゃん連れのお母さんが座りました。赤ちゃんはお母さんの側を向いて抱っこされているのですが、そこから後ろにのけぞるような形で、ぼくと目を合わせてくるのでかわいいです。頭がぐわんぐわんなってている。

赤ちゃんはぼくのキャリーケースの取っ手の部分をいたく気に入ったらしく、お母さんの隣の席に座ってからは、ずーっとそれをひっぱっていた。
何度かひっぱってはこちらを見て笑い、何度かひっぱってはこちらを見て笑いを繰り返したかと思えば、背もたれに深く腰掛けて、眉間にシワを寄せて、こちらを品定めするように見つめたりと、忙しい赤ちゃんだった。かわいい。


別れの時も、赤ちゃんはやっぱりくるりと振り返るのではなく、後ろにのけぞる形でぼくの方を見て、ばいばいをして去っていった。柔軟性がすごい。

さーもうすぐで大垣だぞー。



13時52分

三年前は、この大垣から姫路までの3時間、ずっと電車で会ったおじいちゃんと話していたなあということを思い出します。

プロの18きっぱーでした。

機械にやたら強いおじいちゃんで、いろいろ教えてくれるおじいちゃんと、それを教わる若者という、なんだか倒錯しているような場面を繰り広げたことを思い出します。

というか、何にでも詳しかった。
ぼくがあまりに何も知らなさすぎるだけかもしれませんが。

というわけで、そろそろ関西に足を踏み入れつつあります。このまま順調に行くとよいなあ。


14時21分

あのアレな大学生集団、集団で一体どこまで行くつもりなんだ…(乗った車両にまたいた)

ぼくも旅の道連れがいた方がいいとは昨日言ったけれど、あんだけ人数がいるとなんかそれはそれでなあ。


ぼくは美術館に大人数でくる人もあんまり好きではない。具体的には4人以上でくる人。旅とは直接関係ないけど。


さーこっからは乗り換えというよりは、ひとつの電車に長く乗る戦いに、なってきます。
景色も畑畑アンド畑から、徐々に都市化していく頃合い。そろそろ言葉も関西よりになってきますかねー。

言葉が変わると、遠くにきたなあという感じがしますよね。


15時43分

耳元で囁かれる関西弁のやわらかさに、こそばゆいような、いい気持ちになっています。

別にぼくに対して発されているものではなく、単に声の発生源とぼくの耳とが近い位置にあるというだけの話なんですが。

電車に乗っていて、隣にきれいな人が座ってくれると、社会に許されてる感があって嬉しいのですが、その人が正面に座った時は、それはそれで嬉しいのでどちらを取るか、これはとてと難しい問題であるというようなことを、暇すぎて考えています。どちらを取るかも何も、人がどの座席に座るかなんてことはぼくにはいかんともし難い問題ですが。


そんなことを考えていたら、天罰なのか、三度ほど直射日光を目にいれる羽目になりました。

ちょうど今、新大阪を出たあたりなんですが、すごく濁った、粘性の高そうな、ゼリーのような川があって、関西すげええってなってます。



16時7分

神戸松蔭女子学院大学の広告に、なるほどと思わされた。

正面顔の写真のどあっぷ、その顔の中心に白い線がひかれていて、向かって左側が入学前、向かって右側が入学後となっている。

beforeとafterで見た目に変化はなさそうで、ん? と思って下を見てみると、「変わったのは中身です」と書いてある。

中身の変化を示すために外見持ち出すってのは、常套手段っぽいですけど、なんか鮮やかだなあと思ったのでした。


もうすぐ姫路ー。
今時刻表見てて気づいたけど、ゴールにつくまでトイレいく時間がなーいー♩


17時36分

よく見たらトイレ行く時間ありました。これから4時間ほどは、ほんとにもう、ないですけど。

太陽もその高度をだいぶ下げてきて、
日除けをあげていると目に優しくないので、仕方なくおろしているのですが、そうすると景色をすごく狭い隙間から見なければならなくなります。

前回の旅の時、日が暮れて暗くなると、見えるものがなくなってしまって随分退屈したものでしたが(本当に暗いのです)、日が落ちる最中、景色を見るのも一苦労です。


窓の外は、緑がいっぱいです。
畑、木、
河原に生えた草々、
あとは、山の存在感が、すごい。

裾野も広いし、高さもある。
山肌を見せない木の密度も、合間って、近寄り難いような、入るとなにがあるかわからないような、そんな空気を放っています。

民家は鉄筋コンクリというより、木造っぽい立派な構えの日本家屋が多くて、日本の伝統建築好きとしては、自然とテンションがあがってしまいます。

残す乗り換えはあと一回。
そこまで着くのにあと一時間、乗り換えてからもゴールまでに2時間半とちょっと電車に乗らなければなりませんが、どうやら無事にテープを切れそうです。

あ、
ついでのようですが、
高校卒業以来お会いしていない先輩に、ゴールで会えることになりました。SNSの力とはすごいものです。
おごらないからなと念をおされましたが、ぼくはそんな目上の人にたかるような人間ではありません。


18時21分

ぼくが生まれて初めて関東の地を踏んだのは幼稚園の年長の時でした。
その時一番印象に残ったのは、日が暮れるののとても早いことでした。

その前は福岡に住んでいたので、
そう思ったのです。まだ外で遊べる時間のはずなのに、もう、帰らなければならないのかと。何故、こんなに外は暗いのかと。

当時は気がつきませんでしたが、日が暮れるのが早いということは、日が登るのが早いのと同じことです。


日が登るのが早いところから、日が落ちるのの遅いところへ移動する旅だから、今日は随分長い時間、太陽のあがっているのを見ていることになります。

今は岡山にいて、
そういえば去年勉強の面倒を見ていた優秀な男の子は、ここの出身だったなあと感慨にふけっているところです。

もうすぐ、今日で最後の乗り換えがあります。


21時19分

あとちょっとでゴール…!
先輩とお好み焼きが待ってる…!


ちなみに暖かい布団は待ってません!


23時37分

今日の宿にたどり着きました。
長い一日だった。

在来線の電車にもトイレがあるって初めて知った。


お好み焼きはおいしかったけど、もうマヨラーなる歳じゃねえなってなりました。(なんだかマヨの多いお好み焼きを食べた)


先輩は、それはまあすごい先輩なんですけど、会っていなかった6年の重みを感じさせないくらい、当時のままでした。
その当時のままの先輩と、挨拶もそこそこにビールで乾杯するのですから、いくら感じさせないとはいえ、やはり6年の年月は経ったのだなと思いました。

最近よく噛んで食べる人になったので、お好み焼き、ものすごくお腹いっぱいになって、トイレ行きたくなりすぎて別れ際が適当になってしまったのが、とても悔やまれます。しかもトイレにトイレットペーパーなかったし。罠です。ポケットティッシュなかったら死んでました。


立派な大人になれよ。と先輩に言われて、本当に感動したので、ちょっと泣けますね。と返したら、嫌味だけどなと言われました。ぼくは高校時代、そんなに素行の悪い後輩だったんでしょうか。
先輩も素直じゃないです。


今回は特に何の問題もなくゴールに辿り着けました。お好み焼き屋の店員さん曰く、台風が来ているらしいので、明日もその無事が続くことをただただ願うのみです。

明日は父の誕生日なので、帰ったその足で誕生日プレゼントを買いに行って、家で少し休んで、そっからお祝い会をしたいと思います。

それにしてもキャリーケースはさすがに重すぎた。最後なんか左腕が若干痙攣していてちょっとびびりました。実家でなんかどうせ勉強しないのだから、本は置いて来てよかったかもしれません。

そこらへんの、潔さみたいなのが、まだまだ今のぼくには足りていないです。


最後の更新はもしかすると日を跨ぐかなと思っていたんですが、綺麗に7日の内に終われそなので、よかったです。

明日も引き続き、6時間の旅が待っております。

今日は少しでも、休みたいと思います。おやすみなさい!